2012年5月27日 喫煙のロジック

「妊婦の喫煙」を例にして、結論の異なる2者間の意見の相違を埋める方法を考える。

人は「ある行動」を行うかどうか検討する際に、各々のメリットとデメリットを無意識のうちに比べる。
ここで言う「比べる」というのは「自分なりに比べる」ということを指し、
万人にとって共通な尺度によって比べられることは少ない。

そのため、ある人物Aの行動が他人Bにとって「理解できない」ものであることがよくある。
その理由は(1)AとBでメリットとデメリットの見積もりに抜けがある、(2)事実に対する評価が異なる、あるいは(3)評価の基準(期間、リスク許容度など)が異なる、等が考えられる。

例えばAさんは妊娠中の愛煙家、Bさんは独身の嫌煙家だとしよう。
どちらも「妊娠中にタバコを吸うのは良くない」という認識は一致しているが、Aさんはタバコを吸っている。

この時タバコを吸わないBさんは、例えばタバコを吸うメリットを1pt、吸うデメリットを10ptと評価して、
妊娠中であるAさんにタバコを吸わないよう提案する。

いっぽうAさんは、タバコを吸うメリットを8pt、吸うデメリットを5ptと評価していた。
吸わないメリット(=吸うデメリット)を認識してはいるが、吸うメリットが大きいので
Bさんの提案は受け入れられない、ということになる。

メリット・デメリットの評価は人それぞれ。
結局はその人(Aさん)自身がタバコを吸うメリットとデメリットを比較すればいい話なので、
評価関数が異なる他人がタバコを吸っている妊婦を批判するのはおかしいのだ。

----そうだろうか?(フェイント)

Aさんは従来ならタバコを吸うメリットを8pt、吸うデメリットを10ptと評価していたが、
いざ妊娠してみると体調が辛く、たばこを吸うデメリットを低く再評価してしまった可能性がある。
目の前のタバコを吸いたいがために、そのことが実現できるように、自分に都合よく(時には無意識のうちに)評価を変えてしまうのである。
この場合は、BさんはAさんに喫煙のデメリットを思い出させ、禁煙を提案すべきである。

もちろん逆の可能性もある。
Bさんはタバコは体に悪いという絶対的な、固定化した先入観を持っており、
本来吸うメリットを8pt、吸うデメリットを5ptと評価していたはずが、
吸うメリットを低く見積もった可能性もある。
また、妊娠未経験者には、妊娠の苦労が分からないため、
妊婦がタバコを吸うメリットは正確に評価できないはずである。
しかし吸うデメリットだけは理解できるため、喫煙という行為を正当に評価できていない可能性がある。

そういうわけだから、BさんはAさんに禁煙を迫るべきかどうかについて、唯一の結論というものは無い。
AさんとBさんの間柄やキャラなどのケースによっても違うし、
何より大変な最中であるAさんの、その瞬間の体調などにも左右される。
従ってこのようなやり取りは、実際に会って行うのが基本だと思う。
相手の顔が見えていれば、今がそういう話をできる状態であるかどうかが分かるし、
話を切り出した瞬間の相手の表情の変化などから最適な対応ができる。

そして重要なのは、喫煙の可否という結論について議論するのではなく、
AさんとBさんの考えているメリット・デメリットの評価の相違について議論すること。
結論が異なっている理由は、2人の評価関数が異なっているからなので、
そこを議論しないとなかなか話が噛み合わない、あるいは
その場では噛みあった気がしても後日再度結論が覆されたりする可能性がある。

今回は喫煙の例を出したけど、このような「評価の違いによる結論の違い」というのは、いろんな場面で起こることです。
結論を変えようとするのではなく、その結論の基礎となっている「メリット・デメリットの評価」の相違を確認すれば、
大抵の問題はより効率的に、かつ平穏に解決に向かうと思います。
そして、その話し合いの方法・語調・タイミングなどをうまく選ぶこと。

僕自身もなかなかうまくいかないことが多いけどね。

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